診療システムの構築に至った流れ
国立病院機構 栃木医療センターは病床数350床の中規模の2次医療機関であり、栃木県宇都宮市内唯一の感染症指定医療機関としてCOVID-19流行当初から軽症〜中等症患者の診療を行っている。診療を担当しているのは主にプライマリ・ケア医を中心とした内科医で、呼吸器内科医や成人の感染症専門医は不在である。
栃木県宇都宮市では、2020年の年末年始にCOVID-19の爆発的な増加があり、全国的にみても最悪の規模の感染拡大を経験した。1月初旬には人口10万人当たりの感染者数が全国4位となり、市内の病床が逼迫する状態となった。さらに、1月13日には栃木県も緊急事態宣言の対象地区と指定される危機的な状況だった。当時、市内で軽症〜中等症の入院病床を有している医療機関は2病院しかなく、宿泊療養施設も1施設のみで稼働率も不十分な状態だった。患者受入体制が不十分な中、短期間で患者が増加したため自宅待機者が急増した。さらに、自宅待機者の増加とともに重症化リスクの高い患者が自宅待機を余儀なくされ、連日COVID-19陽性患者の救急搬送が相次ぎ、搬送時点で重症化している事例が散見されるようになっていた。
このような背景の中で、感染症指定医療機関として1病棟をコロナ対応病棟として拡充して受け入れ患者数を増やす対応を行った一方で、病院内体制の構築だけでは市内の感染者に十分対応できないと判断した。プレホスピタルである自宅待機患者や宿泊療養施設での対応を迅速かつ円滑に行う必要性が高まり、病院から医師を保健所や宿泊療養施設に派遣し、地域全体の連携システムの構築を行うに至った。
システムの実際の枠組み
当初の課題の一つが宿泊療養施設の稼働率が悪く新規の患者受け入れが進まないことだった。その結果、病院からの安定した患者の受け入れや保健所からの軽症隔離患者の受け入れが滞った。一刻も早く重症者や重症化リスクの高い患者の隔離と経過観察が必要と考え、宿泊療養施設に医師を派遣することで迅速で円滑な施設運用が可能になると判断した。病院内の人員も少なく厳しい状態ではあったが、より上流へのアプローチを優先する必要があると考え、栃木県の入院医療調整本部と連絡を取り、医師派遣に踏み切った。
実際に医師派遣を行ったところ、一人一人の入所者の調査票の項目が膨大で記載にかなりの時間を要していることが明らかになり、現場の責任者と相談しながら必要な業務を調整することで、業務負担を軽減し受け入れ可能人数を増やすことができるようになった。また、医師が常駐することで、宿泊施設で判断に迷うようなら医療的問題がその場で解決するようになり、重症化リスクの高い方や重症化している患者を速やかに医療機関に搬送できるようになった。さらに、保健所からの連絡が滞っていることによって入所が迅速に行かないことの一因であることに気付いた。
保健所の機能不全も危惧され、保健所にも同時に医師派遣を行ったところ、やはり保健所も新規発生者の対応に追われ、積極的疫学調査はもちろん自宅療養中の患者の状況把握もままならない状態となっていた。ここでも同様に業務の簡略化と医師による迅速な判断が必要とされた。
患者の受け入れを円滑に行うために、2次医療期間・宿泊療養施設・保健所でリアルタイムの情報共有が必要と判断し、オンラインの定例会議を毎日開催し、保健所からは患者発生状況と入院・確率が必要な自宅待機者の情報が共有され、宿泊療養施設や2次医療期間からは空床状況や施設間移動の調整、保健所から提示された患者の対応を決定するという判断を連日行った。
結果として、安定した患者は病院から速やかに宿泊療養施設に移動できるようになり、宿泊療養施設の稼働率は著しく改善した。また、自宅待機者も適切なタイミングで病院や宿泊療養施設への受け入れを実現することができ、1月中旬以降自宅療養中の死亡者を出すことなく速やかに自宅待機者を減らすことに成功した。
うまくいっている点
第三波収束後も入院医療機関・保健所・宿泊療養施設の連携が継続されており、更に栃木県の入院医療調整本部やその後新規に入院対応するようになった医療機関も参加し、患者受け入れや情報共有の場として、第四波への対応に備えることができている。
改善を必要とする点
保健所への医師派遣はいったん2021年3月末で終了となる。連携を推進するための人材交流は今後も可能な限り行っていく必要があるが、継続的な保健所の医師確保は難しい状態ではある。
〈調査・掲載〉
「covid-19パンデミックに対応したプライマリ・ケア診療システムの集積」対策チーム